7月13〜14日日 *repo* GAKU
尺上岩魚が群れる淵 山形にパラダイス(?)を求めて・・・
「あの川の通ラズの向こうに行けるルートがあるらしい……」
それは、深夜の東北道を走りながら、どちらからともなく持ち上がった話題でした。
思えばあの時から、すでに我々の心は魔物に囚われていたのかもしれません。
地震から一ヶ月ぶりの釣行は、久しぶりにHIYAMAさんとの二人旅です。
出発前に決めていたのは、「山形で初めての川をやろう」ということでした。
さすがに東北遠征も、毎年のように通うとマンネリに傾きがちです。
そこで今回は、今までやったことのない所に行こうというわけです。
ところが、未だ見ぬ初めての川というのは、クセモノです。
ついつい勝手に想像ばかりが膨らんでしまうのですから。
釣り師ならだれでも一度は夢見たことがある、「どこかにパラダイスがあるんじゃないのか…」
っていう、例の「妄想」と背中合わせなんですねぇ。(笑)
道の駅で仮眠を取った我々は、翌朝、予定を変更して、未だ見ぬ「通ラズの向こう」を目指すことにします。
車止めには幸い先行者は無いようです。ですが、すぐにでも釣りたい気持ちを抑えて、ひたすら川を遡ることにします。
「通ラズの向こう……」 その甘美な響き(魔物の囁き)に誘われるかのように。
で、結論から申しましょう。
約一時間かけて辿り着いた「通ラズ」ですが、残念ながら、その向こうへと越えられるルートは発見できませんでした。
いくら夢にうなされた馬鹿な二人組でも、それが危険すぎることくらいすぐにわかりました。
あきらめて、引き返そうとしたその時です。
「通ラズ」の巨大なプールの際で、ライズです。
上流で工事でもあるのでしょうか。いつの間にか、流れには濁りが入ってしまったのですが、
よく見ると大きな魚の影が右に左に揺れながら何かを捕食しているようです。
慎重に立ち位置を決め、HIYAMAさんが狙います。
手前の流芯をまたいでの対岸寄り、緩やかな反転流の中で、頭を下流側に向けた大きな影がライズを繰り返しています。
2、3投目だったでしょうか。
ビートルパラシュート#10をしっかりと咥え込んだ魚は、それまでの緩慢なライズフォームが嘘のように、
一転して猛然と走ります。
さすがにHIYAMAさん、その突込みをうまく交わして、高い位置から差し出したネットに魚を掬い入れます。デカイ!!
遠目で見えていた以上に大きな魚体に、びっくりです!
雄岩魚特有の、精悍な顔つきが、風格を感じさせます。
いきなり尺上とは、HIYAMAさん、お見事です!
はるばるここまで遡ってきた甲斐がありましたね。
メジャーを当てると36p! 自己記録更新だそうです。
それにしても見事な尾びれです!
続いて、私の番です。
先ほどHIYAMAさんが釣り上げた同じ反転流の中で、別の魚がもうライズを始めています。(えっ、ホント?)
ライズのたびに、見せるその魚体は、やはり決して小さくはありません。(マジかよ〜)
ところがです。「見えている魚を、見られながら釣る」というプレッシャーに弱いせいか、
いっこうにキャストが決まりません。(汗)
反転流とは言っても、とにかく緩い流れの中、ゆっくりと吸い込むようなライズをしているので、
できるだけ長い時間ドラッグフリーでフライを漂わせていたいのですが、あと少しのところで、
ラインが手前の強い流れに引かれてしまうのです。(←言い訳)
しかも、キャストを繰り返すたびに、さすがに警戒心の薄かった魚も、フライを見切るようになってきます。(汗)
ふと、手前の水面に目を向けると、小さな羽蟻が流れています。
どうやら、この羽蟻たちが反転流に大量に集まって、魚はそれを吸い込んでいるようです。
で、フライのサイズを一気に落として、再々チャレンジ……。
ヒット! …… んぎゃ〜! やってしまいましたぁ!
一瞬の手ごたえを残して、バラしてしまったのです〜(大汗)
小さなフライなんだから、もっとゆっくり合わせなければいけなかったのに〜(涙)
その場にへたり込んで、しばらく動けなかった私を、優しいHIYAMAさんは慰めてくれます。
ところが、しばらくしてまた同じ場所を見ると、なんと、別の魚が入っているではありませんか!?
しかも、今までの奴よりも、ひとまわり、いえ、ふたまわりも大きな影です。(マジかよ〜!)
そいつが、薄濁りの中、大きな三角形の鼻先を出して、水面に漂う羽蟻をゆっくりと吸い込んでいるのです。
見ているだけで、鳥肌が立つような(?)光景です。
……数分後。
HIYAMAさんの#2ロッドは大きく弧を描き、水中深く突き刺さったラインはぐんぐん引き込まれています。
バシャ バシャ バシャ!!
大人の手のひらほどもあろうかという大きな尾びれが一瞬見え、それが激しく水面を砕いたかと思うと、
次の瞬間、辺りは元の静寂に突き戻されていました。
無情にも……。
「40オーバーだったねぇ」
うかつにも、そんな言葉を口にしてしまった自分を反省しながら、努めて明るく振舞おうと次の言葉を探していると、
思いのほか晴れやかな笑顔で、HIYAMAさんは振り返ってくれます。
「5X、切られちゃいました」
わずかな時間でしたが、普通に考えれば、とんでもないことが立て続けに起こったこの場所は、いったい何なのでしょう!?
下流のダム湖からの遡上なのか、とにかくこれだけの大型魚がストックされるキャパシティー豊かな場所であることは
間違いなさそうです。そこに、羽蟻という極小の虫たちの大量流下がたまたまあり、それが、普段は深い渕のボトム付近で
賢く生き抜いてきた大型魚の警戒心を緩めてしまったのでしょうか……??
さあ、引き返しましょう。
しばらく二人で呆然とした後、気を取り直し、腰を上げます。
流れでは、先ほどからの濁りが、また強くなってきたようです。
淵尻の浅瀬を渡ろうと、岸から足を踏み入れる場所を探していたその時です。
ふと下流に目をやると、薄濁りの中、水中の倒木が左右に揺れ動いたかのように見えました。
ん? ……ん?
もう一度目を凝らしてよく見ると、どうやら、倒木に思えたのは、岩魚でした。
それもかなりでかい奴です。
いま、下手に動くと、すぐに察知され、走られてしまうのは目に見えています。
けれど幸い、距離があります。
その場にひざまづき、リールからラインをたっぷりと引き出します。
視線が低くなったせいで、私からは、魚影が見えなくなってしまいましたが、HIYAMAさんにお願いして、
離れた高い所から魚の位置を教えてもらいます。
まずは、ロールキャスト。 フライ先行で、いい位置にラインが落ちます。
あとは、フリッピングで、ゆっくりとラインを送り出していきます。決してフライに不自然な動きを与えないように……。
……緩い流れに乗ったコーチマンパラシュートが、浮上する魚の口に吸い込まれ、それが再び水中に沈むのを見届けてから、
ロッドを起こし、ラインにテンションを掛けます。
乗ったぁ〜!!
次の瞬間、ザブンと、岸から流れに飛び込み、やりとり開始です。
岸際の大岩のエグレがそいつの住処なのでしょう、執拗にそこに突っ込もうとします。
それをどうにかいなして、浅瀬へと誘導すると、デカイ!
一瞬のたじろぎが相手にも伝わったのか、ネット直前で何度も走られます。
ようやくネットに収まったのは、尾びれがはみ出すほどの魚体でした。
雌なのでしょう。長大な魚体のわりには、愛らしい顔つきです。
なーんて、私がじっくりと写真撮影をしていると、その間に、HIYAMAさんにまたまたヒット!
対岸の淵尻で始まったライズを仕留めたのだとか。
またも尺上です!
メタリックに輝く、美しい魚体です。
そうして、まだリリースする前だった岩魚と二匹並べてみると……
手前が35p、奥のは、身体が曲がってしまいましたが、伸ばしたら39pでした。
こうして並べてみると、岩魚にも、それぞれに個性があるのですね。
我々二人も、交代で撮影会です。
やはり「魔物」に化かされてでもいたのでしょうか?
夢のような、あるいは異次元にでも迷い込んでしまったかのようなひと時は過ぎ、ふと気づけば、
我々の釣欲もどこかに消え失せていたのでしょう。
「今日はもう上がりますか」
その日は、まだ陽の高いうちに宿に着き、温泉に浸った後は、山菜料理でビールを酌み交わし、すっかりいい気分に。
夕食後の散歩で、山間の湯治場の鄙びた風情を味わい、まるで別世界へとタイムスリップしたかのような不思議な感覚に包まれ
、そして、その夜はぐっすりと……。
そして翌日。
「今日もまた、とんでもないパラダイスが……?」
そんな夢にうなされた馬鹿二人組が選んだのは、新規開拓の川を目指して、往復3時間近い道のりを歩くことでした。
事前に地形図を見て、当てにしていた林道は、現地に行くと工事のせいで通行止めでした。
普通なら、ここであきらめて別の川に移動するはずです。
ところが、夢にうなされた二人組の思考は、そうならなかったんですねぇ〜。(汗)
「通行止め」=「釣り人が入れない」=「大きな魚が沢山いる」
まるで幼児並みの、単純な思考回路です。(大汗)
で、結論から申しましょう。
たしかに我々の読みどおり、往復3時間はかかりました。
ただ、読みが甘かったのは、帰りの登り道が予想以上にきつかったことです。
(もはや老体の私には、帰りの2時間は「苦行」以外の何物でもありませんでした。)
そして、その苦労の代償として得られるはずだったパラダイスの夢は……。
でも、それ以上に応えたのは、浅はかな欲にかられた我が身の愚かさを、改めて思い知らされたことでしょうか。
約1時間の下りの末、辿り着いたのは、こんなに素敵な、森深い渓流でした。
通行止めの影響なのでしょう。たしかに、踏み跡もほとんど見られず、人の気配の幽かな渓は、
時に神秘的でさえありました。
ですが、釣れたのは……
斑紋と朱点が美しい、愛らしい岩魚が、わずかに1匹。
かなりの長い距離を釣り上がったにもかかわらず、二人合わせても3匹だけでした。
もちろん、パラダイスの夢は、はかない妄想と消えて崩れたのは言うまでもありません。
登りがどこまでも続く帰り道、疲れ切って思考停止に近い頭の中では、
「やっぱりこっちが現実で、昨日の出来事はすべて夢だったんではないだろうか」
と、くりかえし思い返されるのでした……。
(釣り人)「どこかにパラダイスがあるんじゃないのか…?」
(岩魚)「……んなもん、あるわけないだろ!」
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